我が日常の裏・表

いろはす/芭蕉(Twitter:Irohasu1230)のTwitterに収まらない話

【数学】レードルで半分の量を計ってみたら

 以前、ラーメン屋(正確にはラーメン系の麺料理を提供するお店)でアルバイトをしていた時のお話です。

 

 そのお店の看板メニューを作るには、ラー油やタレをレードルで数杯注いでスープを作り、そこに茹でて湯切りした麺を盛り、刻みネギやらをトッピングすることになっていました。

 私が任されていたのはディナーの時間帯の店番(調理・接客等)とその後の閉店作業なのですが、時間がシビアな閉店作業が控えているにも関わらず、調理台の壁に並盛と大盛で2本のレードルをぶら下げておくのすら億劫でした。分量を計算するに、大盛の分量は並盛の1.5倍なのですから、並盛のレードル1本で十分なはずです。

 この店の看板メニューには、ラー油を並盛(20cc)、大盛(30cc)でそれぞれ1杯ずつ注ぐことになっているわけですが、大盛のオーダーが入ったとしても並盛用のレードルで1.5杯注げば必要十分だろうという話です。さらに言うと、ラー油を45cc必要とするメニューもありました。

 だから、並盛20ccのレードルで10ccと5ccが測れるようになりさえすれば、大盛用の30ccのレードルはお役御免なんですよね……。正確な値じゃなかったらどうするんだという話もありますけど、そもそも45ccのメニューだって大盛の30ccレードル1.5杯分として提供していたので今更そこを突かれてもしょうがありませんでしたし。

 どのキッチンにも、売り上げの計算やその場でのメモや張り紙のために、紙とペンくらいはあるものです。

 そこで、本当にお客さんが全く来なかったディナータイムに、並盛のレードルにおける0.5杯分とは、液面の高さがどれくらいになるのかを真面目に計算してみることにしたのでした。0.25杯についても計算できれば万々歳です。

 

 ありがたいことに、お店のレードルはほぼ半球の形状をしていたので、その輪郭は

x^2 + y^2 = 1 ただし, y \le 0

としても良さそうでした。さらに計算を簡単にするために,y 軸の正の方向に 1 だけ平行移動して考えることにします。そのため,下図の通りになっています。

 液面の高さを r \;\;( 0 \leq r \leq 1 ) とし,その時にレードルに入っている液体の体積を  V(r) とおくことにします。すると,

 V(0) = 0, \quad V(1) = \frac{4}{3} \pi \times \frac{1}{2} = \frac{2}{3} \pi

となりますね。さて,あとは  0 \le r \le 1 にかけて関数  V(r) を定式化できれば勝ちです。特に, V(r) y 軸に沿って回転させた回転体の体積であるため,赤線の長さ \ell(s)さえわかれば

 V(r) = \int_{0}^{r} \ell(s)^2 \pi ds

として計算することができます。(回転体の体積って結局,高さ  s における液面の面積  \ell(s)^2 \pi s 0 から  r に至るまで重ねたものですから)

 

赤線の長さ  \ell(s) は,図のように直角三角形を見出すと,三平方の定理から

 (1 - s)^2 + \ell(s)^2 = 1

であるため,

 \ell(s)^2 = 1 - (1 - s)^2 = - s^2 + 2 s

と求めることができました。そのため,回転体の体積  V(r) は,

 V(r) = \int_{0}^{r} (-s^2 + 2s)ds = \pi ( -\frac{r^3}{3} + r^2)

と求められます。

 

レードル0.5杯分の体積は, V(1) \times \frac{1}{2} = \frac{1}{3} \pi ですね。

そのため,

  \pi ( -\frac{r^3}{3} + r^2) = \frac{1}{3} \pi

が成り立つ  r の値を  0 から  1 の範囲で求めればOKです。

計算すると

 r^3 - 3 r^2 + 1 = 0

という簡単な形にもってくることができました。

とはいえ、因数分解するのは骨が折れそうです。そこで、本部との連絡用にお店に置かれていたiPadを起動し、Google検索で3次曲線  y = x^3 - 3 x^2 + 1 のグラフを描かせてみることにしました。この曲線が  0 から  1 までの範囲で  x 軸と交点を持っていればその座標が我々の求めていた  r の値です。検索窓に「y = x^3 - 3 x^2 + 1」と入力すると、この通り。

どうやら  r = 0.653 らしいですね。  \frac{2}{3} = 0.6..... だし、半球状のレードルにおける0.5杯とは、液面の高さが3分の2にになる辺りと結論付けて十分でしょう。

 

ついでに、この勢いで0.25杯についても調べてみました。その体積は、

 V(1) \times \frac{1}{4} = \frac{1}{6} \pi

です。そのため、  \pi ( -\frac{r^3}{3} + r^2) = \frac{1}{6} \pi となるので、

これを簡単にすると、

 2 r^3 - 6 r^2 + 1 = 0

という方程式が得られました。面倒なのでこれもGoogle先生の力を借りて  r の値を求めてしまいましょう。



どうやら  r = 0.442 っぽいですね。だいたい2分の1でしょうか。

 

というわけで、半球状のレードルにおいて、その0.5杯や0.25杯を測る際は、液面の高さがそれぞれ3分の2、2分の1くらいになれば良さそうだということがわかりました。

 

問題解決。お陰様で安心して大盛のレードルを早々に片付けてしまい、閉店作業の効率化を図ることもできました。そもそも、これを計算していた間、誰一人としてお客さんが来なかったことの方が問題だった気もするんですけどね。