我が日常の裏・表

いろはす/芭蕉(Twitter:Irohasu1230)のTwitterに収まらない話

【感想】米津玄師 2022 TOUR / 変身 神戸公演1日目

母が、当ててくれました――。

音楽的な経歴としてはヒトリエと同郷である今や日本屈指のアーティスト、米津玄師。

高校時代から僕がヒトリエと並んでこっそり追っていたのが、「orion」、「Lemon」、「感電」とヒット作を飛ばすにつれて家族にも膾炙し、とうとう家族ぐるみで追いかけるまでになっていました。2020年に発売された5thアルバム「STRAY SHEEP」は母が代表して購入し、今日に至るまで実家に保管してあるほどです。

この度、実家に祭られていたアルバムに眠っていたコードを起こして1次先行に母が僕と妹と3人分申し込んだところ見事に当選。

 

というわけで、家族3人で米津玄師のライブに参戦してきたのでした。2020年2月 HYPE の広島公演以来2年半ぶりです。いよいよ地元の広島で箱を抑えてくれなくなったか……。

 

デジタルチケットにて発券された席は2階のスタンド、ステージの下手側。通路のすぐそばで何にも遮られることなく気持ちよくステージを望めました。

 

17時開演。スタジアムの照明が下り、ステージの背後に左右で同じ映像が浮かび上がりました。同時に、「駐車券を、お取りください」というアナウンス。

地下駐車場に白いセダンが入り込んできて、ややあって駐車すると中からボタンの眼をした“NIGI Chan”が降りてきて、トランクから1輪の花を抱えエレベータへ。

映像はそこまでで画面が暗転。辺りが暗闇に包まれたのも束の間、今度はメインステージの中央後方で地下から上がってきたエレベータよろしく、水色の筋が下から伸びてきました。扉が左右に開くと、スモークの向こうにすらりと高い男の影が浮かんでいます。

今日の主役・米津玄師の登場でした。拍手と陽気なパーカッションに迎えられ、「POP SONG」からライブの幕が上がります。斜に構えた魂のこもった歌声が4拍子の手拍子を誘う。今日の服装は黒のパンツ(ガウチョってやつ?)に濃い水色の開襟シャツ。パーマの髪のギリギリから泣き黒子のある右目が覗いていました。

マイクを握りしめメインステージを徘徊しながら歌う姿は楽しそうで、間奏を使ってステージ中央の通路を通ってセンターステージに降臨。移動中やけに滑らかに移動しているものだと思い目を凝らすと、通路にムービングウォークが仕込まれていました。

曲の終わりにメインステージに帰還すると、ダンサーが流れ込んできて、続いて2曲目の「感電」へ。綾野剛星野源のW主演で大ヒットしたドラマ「MIU404」の主題歌です。白と黄色の照明が華やぐポップな空間。突発的に生配信を決行したり紅白歌合戦に招待されたりして披露したように、米津玄師の生歌の歌唱力は折り紙付き。ライブでも音源と遜色ない迫力です。ただ音を伸ばしたり子音を発したりするところにこの瞬間の彼の癖が滲むため、生歌を聴いている実感が湧いてたものです。「感電」では途中、“愛し合うように喧嘩しようぜ/やるせなさ引っ提げて”の“ぜ”や“て”の、音源と比べてより絡みつくように粘っこく聞こえました。単純に好きな曲なのでサビで感極まって泣きました。

ステージの床や背後のスクリーンがピンクと水色でビビットに彩られる中で3曲目「PLACEBO」。RADWIMPS野田洋次郎さんとのツインボーカルが話題を呼びましたが、ライブではもちろん1人2役。メインステージに目を向けると下からせり上がって来たバンドメンバーが。ベースのアレンジがライブ特有のグルーヴ感。

 

MC。「こんにちは、米津玄師です」。メインステージに帰ってきた米津玄師が口を開きました。ライブツアー自体がコロナ禍のため2年半ぶりであるのは言わずもがな、神戸に来るのも5年ぶりという。「今日は楽しんでいってください。とは言っても次は楽しい曲じゃないけど」

 

4曲目「迷える羊」を皮切りに、しばらくはスタンドにマイクを挿してその場で1曲1曲魂の籠った歌唱を披露してくれました。5曲目「カナリヤ」は一筋の細いスポットライトに照らされた米津玄師を囲むように円上の青い筋が工芸品のように斜めに照らしていました。最後のサビ「いいよ あなたとなら いいよ」を合図に囲んでいた青い光が上に展開されるのはまさにかごの中の鳥が解き放たれるかのよう。曲の終わりにステージ後方のスクリーンに飛び立つ鳥のアニメーションが投影されていました。

続いて6曲目「Lemon」。アルバムのトリ、HYPEツアーのトリとボスラッシュのような曲が続き若干気圧されたのは言うまでもなく。紅白歌合戦でも披露された平成の末期の名曲です。米津玄師の知名度を不動のものにした1曲といっても過言ではないはず。

散々人々に聴かれてきた曲だからか、歌い方を変えたのかと邪推できるほど音源と若干違いました。どちらも良い。さしずめ、「Lemon(2022 Remastering)」といったところでしょうか。

7曲目「海の幽霊」は全編にわたって背後のスクリーンにMV(アニメーション)が投影されていました。天国への階段や教会を表現するかのような白い筋がアリーナを照らした「Lemon」とは打って変わって、今度は太い蒼の光がアリーナを深海に沈めていました。

伸びやかな歌声が葬送の曲に合う。思わず自分の魂が持っていかれるところでした。

 

ここで再びMC。地声が低く、校長先生の話みたいで自分が喋り始めると盛り下がってしまうと自嘲されていました。「この前結婚した友人に捧げる曲です」と言い残して、ライブは続きます。

 

小鳥の囀りのようなストリングスの音色がアリーナに聴こえてきました。なるほど、結婚した友人というのは菅田将暉さんのことでしたか。8曲目は「まちがいさがし」でした。9曲目「アイネクライネ」、10曲目「Pale Blue」までメドレーの如く続けて演奏され、葬儀や教会の空気から恋愛、結婚の空気へ。

「アイネクライネ」ではスタッフからギターを受け取ってギターボーカルを披露していました。この曲はこうでなくちゃ。続く「Pale Blue」はスタンドマイクで。センターステージでは2人の男女がバレエのように色気のあるダンスを見せてくれていました。

 

11曲目に「パプリカ」が演奏されました。背後のスクリーンに沈みゆく夕日が映し出され、その手前がせり上がっていました。その中央で胡坐をかいて歌う米津の姿はまさに酒呑童子。ステージにはダンサーが元気に踊り、上からは花の形をした紙吹雪が舞う。スタンド席なのでフロアで繰り広げられている争奪戦を眺めていました。

 

ここでMC。紙吹雪がまだ落ち切っていないのを見て、「まだ舞ってるよ。舞いっぷりではここが1番だね」と米津氏。「自分なりの楽しみ方で楽しんでいってください。これから速い曲をたくさんやります」と”宣戦布告”がなされました。

 

12曲目。ここで「ひまわり」です。一説にはwowakaを追悼して書かれたという曰くつきの曲です。あくまで説であり、米津玄師はインタビューや対談などでこの曲に関しては何も触れていません。ただ、リフがリトルクライベイビーに似ている。歌詞に「散弾銃」(アンハッピーリフレイン)、「北極星」(ポラリス)、「喉笛」(コヨーテエンゴースト)とwowakaの楽曲を彷彿とさせる要素が散りばめられていることに気づいたファンが唱えているだけのこと。これ以上この曲について噂を語るのはそれこそ“野暮”ですね。兎も角、この曲を8曲目にしなかったことが全てです。気づいている人だけが気づいている程度に収まるので。

ギターを構え、がむしゃらにかき鳴らしながら声を張ってがなる米津。緻密なリフは幼馴染のバンドメンバーの中ちゃんが見事に弾ききっていました。

続く13曲目が「アンビリーバーズ」でした。一説には生前wowakaさんが気に入っていた曲だったそう。昔どこかのフェスのリハで演奏したんでしたっけ(高校時代に観たツイートのおぼろげな記憶)。両手でマイクを握りしめ、米津玄師が吠えるように、叫ぶように歌い、スタンドもアリーナも一丸となって手拍子で応えていました。前へ前へ、力強く足音を強かに海鳴らしながら走っていくかのようでした。好きなようにノッて良い。だからこそ僕は勝手にサビで右の拳を突き上げていました。同じことを考えていた人がまばらに見受けられたのが心強かったです。

 

余韻に浸る間もなく流れるはBPM=180のエイトビート。待っていました、米津玄師のライブ定番必殺チューン「ゴーゴー幽霊船」です。背後のスクリーンにもデジタル数字でカウントが投影されます。「1,2,3」を合図に幾筋もの白のスポットライトがグルグル回る。手拍子に励む者、手を挙げて踊る者、皆それぞれに楽しめるダンスロックに会場は大盛り上がり。ヒトリエでいうところの「踊るマネキン、唄う阿呆」ぐらい我を忘れて踊っていました。横で見ていた妹が、「お前のノリ方だけガチすぎる。」って後でぼやいていました。知ったこっちゃありません。

さらに4th ALBUMから「爱丽丝」。ドマイナーな曲だけどバンド映えが著しい曲です。緑、紫、赤の照明がアリーナを照らし、禍々しい不思議の国の世界を演出していました。サビでの爆発力があって、特に「目を見張るドローン」で叫ぶところは生で聴くとより一層気持ち良かったです。

続いてスクリーンには、二面性バッジの意地悪な笑顔。フロアから、スタンドからまばらに立ち上がる「ピースサイン」。「おーお、おおおーお」と声を出せないのがもどかしかったですが、この曲はピースサインで応えられるのが強みです。

「最後に新曲を演ります」

2022年の秋アニメ「チェーンソーマン」。そのオープニングテーマに抜擢された「KICK BACK」が最後に演奏されました。ステージで吹き上がる炎、スクリーンにはどこからか持ち出した自撮り棒で米津玄師さんが自らの顔面を映していました。禍々しく刺々しい曲調にハスキーでくぐもった歌声が乗った奇怪な新曲に圧倒されるばかりでした。よくわかんねえけどすごかった。この時点では「チェンソーマン」のテイザー動画すら観ていなかったので、歌詞についても全く分からない状態でした。本当に何言ってるか分からなかったです。今はずっと頭の中で「努力 未来 BEAUTIFUL STAR」がリフレインしています。これはこれで助けてください。

 

さて、ステージから主役が去り、会場を再び暗闇が覆いました。アンコールを待つために手拍子が巻き起こるのですが、これが中々そろわない。コロナ前なら「アンコール」と声を上げればそれに同調していくものでしたが、生憎まだまだ「発声禁止」。もどかしい思いを抱えて手を叩きます。

 

するとステージ中央、真上から一筋のスポットライトが。

流れてきたのは剣呑なイントロ。落語家が高座に上がるかの如く、裸足の米津玄師が再びステージに登場。「死神」ですね。ライトの真下に腰を下ろし、噺家が語り始めるかのように歌い始めるのでした。芸が細かいなと思ったのが手拍子。随所でパンパンと2拍叩くところがありますが、その際右手で左腕を2拍、小さく叩いていました。(MVみたいな手拍子ではない)背後のスクリーンには青白く燃える炎。最後は息でそれも吹き消されていました。

アンコール2曲目の「ゆめうつつ」では米津玄師が久々にセンターステージに登場。崩れたリズムが、より一層非日常で幻想的な雰囲気を駆り立てるアウトロではシャボン玉が舞っていました。さらに米津が自らダンスを披露。「LOSER」ほど激しいものではなかったですが、「そういえばこの人踊れたんだったな」と思わされる一幕でした。

 

このタイミングでメンバー紹介を兼ねたMC。ドラムは堀正輝さん、ベースは須藤優さん。確かこの2人は須田景凪のバンドメンバーもやっていたはず。ギターは米津玄師の古くからの友人である“中ちゃん”こと中島宏士さん。「中ちゃん、ちょっと喋ってよ」「オーケー!」その合図で喋り始める中ちゃん。兵庫県は嵐(台風)が来ないことで知られているという。「直近の嵐はいつ来たか、みんなわかるかい?? 今日だよ!!」なるほど。この緩さに会場も温かい拍手。名曲の応酬に堪えて来た心が少し休まった気がします。米津も靴を履きながら笑う。

「この前中ちゃんに喋らせ過ぎてツボって歌えなくなったので今日はこれくらいにさせておきます。もう2曲やります」の言葉で会場の空気が引き締まります。

 

最後にダンサーも紹介。そのお辞儀のまま3曲目「馬と鹿」へ。(ツボって「馬と鹿」の荘厳な空気を台無しにする米津玄師もそれはそれで見たかった……。)先にメインステージに進んだダンサーたちを米津玄氏がサビを熱唱しながら1人ずつ追い抜かしていく演出に感動しました。

 

続く大トリに「シン・ウルトラマン」の主題歌に抜擢された「M八七」でした。鼓動のようなバスドラムに対して突き刺すようなスネアが耳に残ります。ただ1人、叫ぶように歌いながらメインステージ帰っていく米津。圧倒的な歌唱力にただただ気圧されていました。スクリーンには金属質の心臓が映し出さされていましたが、それも最後のサビを合図に砕け散って煌めいていました。最後は入場の時のエレベータのような水色の筋が入ってきました。その中に乗り込んでいく米津玄師。

 

エレベータは再び地下駐車場に下りていくのでした。(世界観がすげぇ……。)

 

再び暗闇に包まれる会場。両サイドに再び映像が投影されました。地下駐車場に降りて来たエレベータからはNIGI Chanが出てきました。ドスドスと1歩1歩を大きな音を立てながら車に歩いていく。荷物を片付けてハンドルを握り、駐車場を後にします。

車は眩しい東京の夜を走っていきます。エンディングテーマとして「ETA」がかかると同時に、中央のスクリーンにはスタッフロールが流れ始めました。主役の「米津玄師」を筆頭に、バンドメンバー、ダンサー、音響や照明のスタッフ、当日の警備員、物販の担当者の名前まで。開演前からフォトスポットや物販が設営され、神戸ワールド記念ホール周辺はまるでお祭りの様相を呈していましたが、それもこの大勢のスタッフの力があってこそ。このコロナ禍において、米津玄師の2年半ぶりのライブツアーを開催して下さったことに感謝するほかありません。

 

素晴らしい夜でした。チケットを引き当ててくれた母に感謝する外ありません。よりよい会社に入ることが親孝行になることを願って就職戦線に身を投じることにしましょうか。

 

追伸。大団円で「変身」ツアーを完走したかと思いきや、来年の全国ツアー「空想」が発表されましたね。明日発売の13th Single「KICK BACK」もちゃんとフラゲできたので、母と妹とチケットの争奪戦に参加したいと思います。来年も楽しみですね。