我が日常の裏・表

いろはす/芭蕉(Twitter:Irohasu1230)のTwitterに収まらない話

【感想】ヒトリエ 10年後のルームシック・ガールズエスケープTOUR 広島公演

彼の手から投じられたソレは、幸運にも僕の手元に――。

 

 伝説のような盛り上がりを見せた、昨年12月のメモリアルライブ「10年後のルームシック・ガールズエスケープ」。そのアンコールMCにて、チケット争奪戦のあまりの白熱ぶりに全国ツアー化が発表されたのでした。幸い、今回は地元である広島でも公演があるということなので、またも妹を誘って参戦してきました。

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 コロナ禍を脱し、3年ぶりに発声が解禁されました。開演を待つフロアに立っていても、隣の人との距離が以前より近かったような気がします。フロアの上手側、ゆーまおとシノダの中間あたりの位置の4列目に、妹と並んで陣取りました。

 

 17時開演。初手「SiserJudy」からのモンタージュガール」。普段は下手・イガラシ側に立っているからこそ、シノダ、ゆーまおの緻密な演奏に思わず見入る。「SisterJudy」中盤、畳みかける部分のドラムをゆーまおがたった2本の腕で捌く様に圧倒されたり、細かいフレーズを弾きこなすシノダの左手の指の太さに経験値を感じたり。BPM=235「モンタージュガール」の手拍子はやっぱり大変。そもそも手拍子をしたり右手を突き上げたりするには限界を突破しています。

 

 3曲目の「トーキーダンス」にて問題発生。

 ゆーまおがエイトビートを刻む前で「トーキーダンスで踊りませんか?」の煽りが入る。4カウントを合図に観客のノリも加速し、ライブフロアがダンスホールに変貌する至福のひと時。

 ところが今回は、歌い出してしばらくしてベースの音が聴こえなくなりました。イガラシが首をかしげながらノブを見直したりエフェクターをいじったりするも改善の兆候は無し。シノダが「好きも嫌いも認めるよ」とサビに飛び込んだところで、イガラシからゆーまおに“止めてほしい”との合図が。

 演奏が停止し、会場のスタッフさんもすっ飛んできて暫しライブは中断。ベースアンプ自体の蘇生は厳しいとのことで、急遽新しいものに再接続されることに。何とか間を持たせようと策をめぐらせたシノダが観客に、

 「いいですか? 私が『イェー!』と言ったら『イェー!』、『山』と言ったら『川』と返してください。行きますよ。『イェー!』」

 突如として始まる、『イェー!』3対『川』1くらいの比率の超高速コールアンドレスポンス。慣れてきたところにぶっこまれる『イヌ!!』、ノーヒントではあるもののとりあえず観客も『ねこ!!』と答える。観客にサムズアップを送るシノダ。下手側をちらりと見やりますが、まだ準備は整っていない様子。

 「いや、MC下手なの? コーレス1回やっただけじゃん」

 シノダへの当たり方はいつも通りでした。その流れでMCのような空気になり、宮島での話に。前日、ヒトリエ公式インスタグラムにて、3人が宮島を訪れた際の一幕を切り取った、50秒ほどの動画が上がっていました。

 

 正面に厳島神社の大鳥居を据える干潟へ下りていたシノダとゆーまおの2人。海のギリギリのところへポケットに手を突っ込んで歩いていったシノダ。そこへイガラシが画面の左端からシノダめがけて猛突進、シノダを海に沈めんとする取っ組み合いが幕を開けました。「ちょっマジで!?!?」と必死に応戦するシノダに対し、イガラシは終始無言。ゆーまおがその右でげらげら笑っていました。この動画に関してシノダが一言、「海専門の殺し屋みたいだった」

 しばらくして代用のベースアンプへの接続が完了。会場に重低音が響きました。PA側の音量調整のためにしばらく全員でそれを見守ります。

「今日はすごくいい音が出るなぁって弾いてたんだけどね」

 準備完了。イガラシが改まって、
「すみませんね。気持ち良く踊っていたところに」

 

 ゆーまお曰く、「ド頭から行くしかない」。というわけで、再びエイトビートの元で「トーキーダンスで踊りませんか?」と煽られるところからライブは再開したのでした。

 ところで、このツアーから観客の声出しが解禁されていました。アンノウン・マザーグースにシンガロングが帰ってくるとあって観客も大盛り上がり。ライブの演出として観客が声を出すことが求められる曲は、アンノウン・マザーグースに限りません。トーキーダンスもその一曲でした。

 ポエトリーリーディングを終え、溜めるようにして迎える大サビの序盤。

今すぐそう 今すぐそう

舞台に立って 笑って泣いて

踊っていいよ 踊っていいよ

という歌詞の、2回目「踊っていいよ」は基本的に観客が声を出すことになっています。

 

 迫りくる該当の箇所。シノダが耳に手を当てるようにして観客を向く。

 老若男女が渾然一体となった「踊っていいよ」の声。

 ドラムロールと共に大サビに飛び込んでは、無我夢中になって踊るのでした。

 

 4曲目「アレとコレと、女の子」を終え、シノダが一言

「アレとコレの次は、風と花の物語」

と繋ぎ、5曲目「風、花」へ。さらに6曲目「日常と地球の額縁」と順調にライブが進んでいきました。

 7曲目「るらるら」は時間停止のドロップ以降はテンポが1.5~2倍くらいに急加速。笑えるくらい速い。

 

 ここでMC。この度の会場は、広島に新しく誕生した「SIX ONE Live STAR」。2022年オープンという、新しい箱です。ステージ上には、大抵どこにでもある様々な色に光るライトや、スモークに光跡が映えるスポットライトを数基ずつ当たり前に備えていたほかに、ステージ後方に8基の棒状のライトが並んでいました。これほどまでに照明が充実しているライブハウスは珍しいようで、シノダも「ここのライブハウス照明すごいね。EDMのフェスみたい」。

 

 照明が会場を真っ青に染め上げたところに演奏された、8曲目「プリズムキューブ」。その音の残響を残したまま、アンニュイなピアノの旋律が耳に入ってきました。9曲目「カラノワレモノ」。もうシノダもわざわざ「跳べ」とは言いません。手招きするような合図をフロアに送るのでした。とはいえ、「低い!」とのこと。観客一同、より高く跳ねて応じます。

 ヒトリエのライブに参戦するのもかれこれ9回目。カレノワレモノの大サビ2段重ねにて、2回目の「泣きたいな 歌いたいな」における強打に合わせて高く跳ぶのができるようになりたいです。(通じてほしい)

 

「我々の、最も新曲?に近い?曲をやります」

 10曲目は、9周年ライブにて満を持して初披露された「undo」でした。この曲をライブで観るのは確かに初めて。音源にて微かに聞こえるアルペジオをシノダが自ら弾くのだそうですが……、ミス。今度はシノダがハンドサインて停止を合図。

「これは、彼の曲です!」すかさずゆーまおが後ろから牽制。

対するシノダ、下手側に向き直って「これでチャラね」

「今のはヒューマンエラーでしょ!」とイガラシも応戦。

 ド頭から再開されました。サンプリングやシンセサイザーの比重が大きい曲ほどライブの印象が変わるのはお約束。こんなにかっこいい曲だったっけと新鮮に感じました。

 

 それからピコンという音と共に11曲目「ゲノゲノゲ」。サビでは周囲への配慮を忘れずヘドバンに興じたりしました。

 フロアをゲノゲノゲにしたところでギターを掻き鳴らし、「おーおーおー」と声を張り上げるシノダ。待っていました、12曲目「アンノウン・マザーグース。観客一同声を揃えてサビを熱唱します。懐かしい光景。

 

 それから続けて、13曲目に「サブリミナル・ワンステップ」が演奏されました。

 間奏において、素っ頓狂なギターリフとシンバル3拍のドロップの応酬が繰り返されるわけですが、カラフルなライトがステージを染めたかと思いきや3拍だけはリズムに合わせて点滅させるという演出が。最新鋭の照明器具ゆえの為せる業でしょうか。

 

 再びMC。「皆さんは10年続いているものはありますか?」というシノダからの問いかけに対し、フロアのどこからか「ヒトリエのファン!」という回答が。こういうやり取りも帰ってきたんですね。私はまだ7年選手ですが。

 10年もバンドを続けていると、ヒトリエやシノダがきっかけとなって音楽の道に足を踏み入れたミュージシャンも現れてくるそう。

 wowakaを喪った翌年、緊急事態宣言下にあったヒトリエに追い打ちをかけたコロナ禍。「神様は、バンドすらも俺から奪っていくのか」という言葉にグッときました。

 そうした中でも変わらないことがあるのだという。それはステージとフロアの関係性。ステージにヒトリエが立ち、ファンがフロアに詰めかけ、ライブという熱狂の瞬間を共有する、この関係性だけは永劫変わらないのだということを伝えたかったのでしょうか。

 それともう一つ、「まだこのバンド辞めたくねぇ」とのこと。自分で作った歌ではないと前置きしたうえで、ライブのタイトルを回収する「泡色の街」が14曲目に演奏されました。

 

 ここまでで必須で演奏される曲が消化されました。ここからは未知。

 ギターの残響を飛び越えて、シノダが一言

「もうひと騒ぎしましょう! 『アンハッピーリフレイン』!!!」

 神。今回は気持ちに余裕があったので今回は3人の演奏をしかと目に焼き付けていました。wowakaのいた頃のライブ映像に合わせて緑を基調にした演出がなされているのが良かったです。この曲のBメロが全楽曲で1番爽快。(そうかい、ってね)

 それから本編を締めくくるように、
ヒトリエより、あなただけに愛を込めて『ステレオジュブナイル」。

 最後にこの曲を置いておくと、もろもろのエモーショナルや汗がすっかり洗い流されるかのよう。熱く、それでいて爽やかにかき鳴らした後、シノダが去り際にピックを投げていきました。

 

 そしてソレは放物線を描き、あろうことか僕の胸元に飛んできました。とっさのことであわてて床にこそ落としましたが、大切に拾い上げ、誰にもバレないようにこっそりと財布の中に仕舞い込みました。

 

 さて、アンコール。発声が解禁されたとあって、今回は手拍子のみならず、「もう一回!」コールも可能になっていました。より強く重いが届いたのか、3人が早々に再びステージに登場。拍手の中ステージ前方に歩み出してきたシノダ、手に持ったペットボトルの水をぐびぐびと飲み干します。拍手はいつの間にか手拍子に代わっていきます。それに応えてか、見事に500mLを一気飲みしてくれました。危なっかしい……。ゆーまおも同じようなことを呈していた覚えが。彼は断れない人なんだそうで。その裏でイガラシさんも結構な量(ペットボトルの8割ほど)の水をぐびぐびと飲んでいました。

 トーキーダンスの一件を振り返ったイガラシが、

「水を飲むたびにアンプが目に入るんだけど、もう音が鳴らないと思うと可笑しくてさ」

 シノダも、これには「無だね。これ機材の中で1,2を争うくらい重い」

「大切に持って帰ろう」

 なんて会話もありました。

 

 毎度新エピソードが飛び出してくる「ルームシック・ガールズエスケープ」制作秘話。広島公演では手焼きの話が展開されました。CDを10枚一度に焼ける最新機器を備えたスタジオへ、ゆーまおとシノダが足を運んだのだそうな。イメージとしてはSplatoon2の“タコツボベーカリー”的な?

 それからさらにシノダとゆーまおの間で即売会における手焼き文化の今昔物語が。

 あと、どのタイミングだったか、シノダがサウナに1時間ほど入っていた話もありました。この人以前の広島公演でも風呂の話してなかったっけ。

 

 アンコールでは2曲、「冷えた体を温めるための『3分29秒』」と、ローリンガールが演奏されました。ローリンガールの最後、かき回すところでシノダがステージを飛び降り(!)、最前列のファンの手が届くくらいのところを練り歩いたかと思いきや、ギターを肩から外してそのネックをメインスピーカーに押し付ける場面もありました。そばで控えていた会場のスタッフさんが渋い顔をしていたのが面白かったです。

 

 12月に東京で行われた「10年後のルームシック・ガールズエスケープ」で知り合えた同好の士とも数多く広島で再会できたこともあって、全体を通して素晴らしい1日でした。

 

 ところで、結果的にお土産として転がり込んできたピック。僕はこのピックと、シノダの「ステージとフロアの10年間変わらなかった関係性」の話に、妙な運命を感じていました。

 そもそも、10年前には、僕はライブハウスに気兼ねなく足を運べる身分ではありませんでした(実際10年前の時点でヒトリエを認知していなかったわけですが)。

 僕が初めてライブハウスの中に入ったのは、厳密にいえば2016年4月。ヒトリエの2ndアルバム「DEEPER」の発売を記念した全国ワンマンツアー“one-Me Tour DEEP/SEEK”の広島公演でした。実家も厳しく、夜間に外出することは到底許されなかった僕ですが、その日はたまたま塾の体験授業と被っており、放課後から夜にかけて外で過ごすことになっていました。

 せっかくの体験授業をサボるわけにもいかなかったのでライブに参戦すること自体は大学進学後のお楽しみにとっておきましたが、それでも物販にだけはありつきたいと、淡い期待を抱いていました。18時を過ぎ、開演を待つばかりになったライブハウス。入り口のスタッフに、あろうことか「物販だけ寄るのってお願いできないでしょうか?」とそのシステムを知る由も無かった当時の僕は無垢に質問してしまい、既にフロア内に場所を移していた物販ブースにだけは入れてもらえたのでした。(開演前ギリギリだったので、今思うと本当にスタッフの恩情に助けられた格好です)

 それでも高校2年生の、まだ財布にゆとりの無かった頃の話。僕は当時のツアーのグッズの中では最も安価な「ピックキーホルダー」(画像の左側2枚)だけを購入し、そそくさとライブハウスを後にして塾に向かいました。一時期筆箱に着けていたので角の塗装が取れてしまっていますね。

左側2枚;one-Me Tour "DEEP/SEEK"
中央白;Coyote Howling ※初参戦!
右側2枚;4 ※コロナ禍で中止

 それから体験授業にくらいついた後の帰り道、午後10時ごろ。

「ライブハウスに寄って帰れば、あわよくばヒトリエを拝めるのでは?」

 無邪気にそんなことを考えてしまった僕は、寄り道がてらひっそりと静まり返ったライブハウスの裏口へ。するとその時、裏口の鉄扉が開き、中から機材を抱えたシノダが。

 生で観た”本物”の覇気に思わず気圧された僕は、何の言葉も出ず、ただただ腰を抜かしそうになりながら逃げるようにその場を後にしたのでした。

 

 10年経ってもファン(フロア)とアーティスト(ステージ)の関係性は変わりませんでした。しかし、僕は10年前なんてそもそもフロアにすらいなかった存在だったことを思うと、10年でこの場に立ち会えるまでになれたことが、ただただ感慨深く思われるのでした。

 

 さて、HITORI-ESCAPE TOUR 2023の開催が発表されました。とりあえず広島公演には参戦する予定です。あわよくば京都磔磔にも行ってみたい。またいつか、よろしくどうぞ。