我が日常の裏・表

いろはす/芭蕉(Twitter:Irohasu1230)のTwitterに収まらない話

【LT】ヒトリエの軌跡をプレゼンする 後編(アンノウン・マザーグース~ステレオジュブナイル)

この記事の後編です。

kubinaga1230.hatenablog.com

 

「変わらぬまま行こう/未だ知らない場所へと向かおう」という表現が、どこかファンとの約束めいていて私は好きです。さて、「IKI」が発売されたのは2016年の末でした。2017年のヒトリエは、果たしてどこに向かったのでしょうか。その答えが、こちらです。

 

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あたしが愛を語るのなら その眼には如何、映像る?

詞は有り余るばかり 無垢の音が流れてく

あなたが愛に塗れるまで その色は幻だ

ひとりぼっち、音に呑まれれば 全世界共通の快楽さ

 

 2017年、それは初音ミクの発売から10周年の節目にあたる年でした。10周年を記念して、ボーカロイドの歴史を彩ってきた有名アーティストらの書き下ろし楽曲を集めたコンピレーションアルバムが作られました。つい先日Adoに「Doctor X」の主題歌を書き下ろしたNeruや、現在まで約10年に亘ってボーカロイド界の先頭を走り続けるDECO*27、現在はヨルシカとして活動を続けるn-bunaと共に、wowakaもこのアルバムに参加しました。さらに、このアルバムとは別件ですが、ほぼ同時期に「打上花火」、「ピースサイン」などを悉くヒットさせていたハチが「砂の惑星」を発表しています。

 

 さて、このタイミングでwowakaが提供したボーカロイド楽曲こそが、ご存知の方も少なくない、先ほどお聴きいただいた「アンノウン・マザーグース」です。約6年ぶりのボーカロイド楽曲ということで大変盛り上がりました。

ここで、冒頭でも取り上げたwowakaの発言を振り返ります。

 

 

「”wowakaらしい“を”ボカロらしい“に置き換えて消費されていく感覚、
界隈全体、ともすると無責任な外野からも、自分をネガティブに奪われていく感覚があって、
まあとにかくガツンと落ちたしダメージを食らってたんです。
そういういろんなタイミングが重なりに重なって、半年くらい泥人間になってて」

 過去を振り返ったものとして前編にて取り上げたこの発言は、この「アンノウン・マザーグース」の発表にあたってのものでした。このとき、wowakaはこの曲について、このような言葉を残しています。

「なんだか(初音)ミクと自分自身が重なって思えてきて、
じゃあそういう設定で自分と初音ミクについて、
今言えることを全部言ってしまおうという気持ちで作りました。
こんなにストレートに、自分の言葉をミクに乗せたのは初めてでした。
過去と、今と、これからについて、言えること全部を恥ずかしいくらいそのまま言ったつもりです」

 

 リスナーとしてこの曲を捉えると久々の一ボカロ曲ということになるわけですが、wowakaにとって、この曲は相当に難産だったのではないかと推測されます。何しろ、ヒトリエ結成から「目眩」に至るまでの軌跡がないことには、自分の言葉を初音ミクに乗せることはできなかったのですから。

 僕にとってもこの曲は思い出深いです。はじめて聞いた時の衝撃が忘れられません。序盤あれだけ飛ばして、まくし立てて、それからサビで急に静かになるなんて初めての体験でした。それから徐々に合唱風に盛り上がっていく雰囲気はwowaka氏の全曲を通してみても本当に異質だと感じます。

 

 ただ、正直この先にご紹介する曲はどれも良い意味で異質です。この「アンノウン・マザーグース」を皮切りに、wowaka、そしてヒトリエの物語は第3期に入ります。第2期は各楽器のフレーズがより特徴的になり、wowakaがwowakaとしての言葉を並べられるようになるなど、作曲や技術面での成長が目立ちました。第3期では、楽曲製作における成長もさることながら、ライブパフォーマンスにおける成長が光ります。当時を振り返って、ベースのイガラシさんは次のように語っています。

 

ヒトリエが『BORUTO』EDテーマで掴んだ新境地「メンバーとお客さんありきの孤独に踏み込めた」 - Real Sound|リアルサウンド

 

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 リンク先の記事は読んでいただくとして、この時期の楽曲はミュージックビデオよりもライブ映像を通してお聴きいただきたいと思います。まずは、「アンノウン・マザーグース」と、同時期に発表された、かの曲と同等以上に異質な曲「Loveless」です。

 

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……不思議な曲ですよね。正直原曲よりもこのライブ動画観てる。メンヘラ風の歌詞と終始平坦な雰囲気、しかしライブではその後のギターとベースの掛け合いが圧巻です。ライブ映像になって”さらに”化けた曲と言っても過言ではないでしょう。

 このときのツアーは、「アンノウン・マザーグース」をボカロ曲として発表していた経緯もあり、セットリストにボカロ曲が幾つか入っています。私自身、この曲のライブ映像が公開される日が巡ってくるとは夢にも思っていませんでした。

 

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 このツアーの後、ヒトリエは台湾や上海でもライブを行います。初の海外公演を経て、「IKI」に続く4枚目のフルアルバムが制作されました。その名も「HOWLS」。猟犬が遠吠えするように、火薬が爆発するように、全方向に尖った曲が並びました。2019年2月27日に発売されました。

 

 1曲目「ポラリス」はアニメBORUTOのエンディングテーマとして書き下ろされました。かつてONEPIECEと共に一世を風靡したNARUTOの続編である、あのBORUTOです。ヒトリエがEDに関わると聞いた時、これはまた大きな仕事が舞い込んだと驚き、喜んだのを覚えています。

 

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 「アンノウン・マザーグース」が怒り、「リトルクライベイビー」が爽やかさを象徴するなら、それらの要素をどちらも含みつつ、それでいて明確に異なるこの曲は、非常に力強い印象を受けます。

 

 3曲目「コヨーテエンゴースト」はヒトリエの演奏力の結晶です。音の密度、曲の情報量ではこの曲の右に並ぶものは無いでしょう。事実、ライブで披露されたのは片手で数えられるくらいしかないほどに、演奏者が消耗してしまうので。

 フルアルバムをリリースすれば、ヒトリエがやってくれることはただ1つ。全国ツアーです。大学2年の春休み、広島公演があったので私もそこでヒトリエのライブに初めて参戦しました。自らの青春を支えてくれた敬愛するアーティストが目の前に立っている、その事実でSEが鳴った瞬間から泣いたのは忘れられない思い出です。そのライブの1曲目が「コヨーテエンゴースト」でした。必死に歌うwowakaさんがかっこよくてかっこよくて。3月16日土曜日の出来事です。

 

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 パフォーマンスで言えば、アルバムの6曲目「November」も気合が入っていました。秋の終わりの寂しさがパッケージングされた静かな曲です。しかし最後にかけての盛り上がり方が素晴らしく。舞い落ちる大量の紅葉、銀杏をバックに演奏するMVが作られて欲しかったと心の底から思います。

 

 しかし、それは叶いませんでした。2019年4月5日、金曜日。ギターボーカルを務めてきたwowakaさんが急逝しました。全国ツアーの真っ最中、翌日6日には京都で、7日には岡山での公演が控えていました。

 突然の事態に全国ツアーはもちろん中止されました。wowaka氏と同時期に現れ、共に活動開始10年の節目を迎えるところだった盟友、米津玄師はブログにてこの訃報に触れています。さらにそれに伴い全国ニュースでもこの訃報は取り上げられたのでした。覚えておられる方もいるでしょう。

 

 バンド全体の作曲者、メインボーカルの死去。元はといえばwowakaの楽曲を演奏するために集まったはずのヒトリエから、wowakaが1番先に去ってしまいました。もう彼が書いた曲は聴くことができない。それはファン以上に遺されたメンバーが重く受け止めていた事実でしょう。

 それでも、彼らは活動を止めることはしませんでした。2019年6月1日。本来ならばツアーファイナルが予定されていた東京・新木場STUDIO COAST。約2か月ぶりにヒトリエのメンバーがファンの前に現れました。今や伝説となった「追悼会」です。リードギターを弾いてきたシノダがメインボーカルを継ぎ、wowakaが遺した楽曲を見事に歌いきって見せました。そして、少なくとも解散はしないことが明言されました。

 

 2020年の12月。それまでおよそ2年に亘って、wowakaが生前に作ってきた曲を歌い継いできた3人のヒトリエから、2年ぶりに新曲がリリースされました。この2年、全国ツアー、ライブ映像の発売、ベストアルバムの発売(※コロナ禍に伴う延期を伴う)など、ある意味wowakaの遺してきたものを様々な形で分け与えてくれました。

 しかし、それだけではいずれ限界が来ます。何か新しいものもいずれ必要になるでしょう。しかし、これまで作曲を一手に担ってきたwowakaはもういません。彼が書いてきたような曲が遺された3人から生まれる保証はないわけです。

 そもそも、「アンノウン・マザーグース」周りでもふれたように、wowakaは表面的な模倣に苦しめられてきました。そのことをよく知る彼らがwowakaらしい曲を書くのでしょうか。それはwowakaが許すでしょうか。

 ファンの間でも新曲のリリースに際して意見が分かれました。ファンもまたwowakaの楽曲にほれ込んだからこそヒトリエについてきたのだという人も少なくなく、遺された3人の曲にハマる人であるとは限らないわけです。2年ぶりの新曲に沸き立つ人もいれば、このような不安に駆られた人もいました。

 メンバーも、ファンも、様々な感情が交錯する中でリリースされた、新体制の1曲目がこちら「curved edge」です。

 

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 これまで大急ぎでwowakaが率いるヒトリエの足跡を辿ってきた皆さんにとって、この曲はどのように感じられますか? ”音は間違いなくヒトリエのそれだけど、歌詞がwowakaじゃない”、それが、私がこの曲に対して最初に抱いた印象でした。この曲の場合、作詞作曲はギターのシノダが行いました。

 

 wowakaの死を経ても、ヒトリエの音楽は死にませんでした。現在、ヒトリエでは全ての新曲の作詞は、2代目ボーカルであるシノダが担っています。作曲は、メンバー全員で行うようになりました。新曲のリリースの度に、どんな曲だろう、という視点に加えて、誰が書いた曲だろうという観点からもワクワクできるようになったのは、大きな不幸の中に訪れた1つの幸せなのかもしれないと、今では思います。

 通算5枚目、新体制になってからは1枚目のフルアルバム「REAMP」には、3人が書いた曲が並びました。先ほどお聴きいただいた「curved edge」はシノダさんが書きました。では、残る2人はどのような曲を書いたのでしょうか。

 

 アルバムの9曲目「イメージ」はイガラシさんの曲です。イガラシといえばヒトリエのベース担当ですが、楽器以外の面においても、彼はヒトリエのベースを担っています。1stフルアルバム「Wonder and Wonder」の制作時には、スランプに陥り製作が進まないwowakaさんの元を個人的に訪ねて作曲活動を後押ししたり、新体制に移行するにあたり、シノダにボーカルを引き継ぐよう説得したりと、彼は重要な局面でヒトリエの方向性を決める後押しをしてきました。

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 ボーカルの座を引き継いだシノダは、この度の訃報を受けて、何度も自らの“決意”を語ってきました。それは3人体制になって初めて製作された「3分29秒」にも色濃く表れています。シノダが”決意”を表明したことに対して、イガラシは特に“悲しみ”を表明してきました。(訃報に際して、4発売時)そして、それは彼が書いた曲「イメージ」にも強くにじんでいます。

 

 ギターとベースとしてヒトリエの左翼と右翼を支えた2人と比較して、後方でドラムを たたいてきたゆーまおさんはどうでしょうか。彼はある意味ヒトリエトリックスターともいえる存在で、ユーモアの擬人化ともいうべき存在です。IKI tourの「シャッタードール」然り、HITORI-ESCAPE TOUR 2022においてアクリルスタンド化されたことも然り。その仕事実績からは思いもよらないほど非常に面白い人です。新体制に移った際、彼もヒトリエとして曲を書くようになったわけですが、作曲に当たって、彼は次のような不安を口にしています。自分にはヒトリエらしい曲は書けない、と。

ヒトリエ「REAMP」インタビュー|3人体制初のアルバムで目指した“ヒトリエらしさ”の追求、そして脱却 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

 

 彼はアルバムの10曲目「YUBIKIRI」を書きました。彼が書く曲は、彼の性格を反映してか底抜けに明るいものです。「リトルクライベイビー」を彷彿とさせるようで、私にとっては励ましになるのでした。聴いていると元気が出てきます。

 

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 現在放送されている深夜アニメ「ダンス・ダンス・ダンス―ル」のEDテーマ「風、花」を書いたのも彼です。このキラキラした感じは「シャッタードール」的なものでしょうか、すごく中毒性のある曲だと思います。ライブで聴くのがすごく楽しみ。

 

 さて、そのライブですが。現在ヒトリエは全国ツアー「HITORI-ESCAPE TOUR 2022」の真っ最中。訳あって全国3か所6公演が延期になっています。大阪、東京、仙台。

 

 

 ……行きたいけど遠い、そう思った方もご安心を。7月からはさらに別のツアー「Summer Flight tour」が計画されているようです。HITORI-ESCAPEはヒトリエが初めてワンマンライブをした時のライブのタイトルなのでか、ヒトリエの懐メロ、レア曲が並ぶセットリストになっていますが、今回はどうやら違う名前になっているようです。

 

 ええそういうことです。つまりアルバムが出るんです。6thアルバム「PHERMACY」。6月22日発売だそうで。はぁ……、楽しみ。ここまで滔々と長文を綴ってまいりました。今よりも多くの人がヒトリエの音楽を聴いて地上波の音楽番組で3人で演奏してる姿が早く観てみたいな、そんなことばかりを考えています。ここまで

 お読みいただき、ありがとうございました。